インプラントを顎の骨に埋入手術した後の骨の反応について簡単に述べておきます。 インプラント手術をした直後の状態は、先に述べたように、かなりのトルク値で埋入されていますので、安定度数(ISQ)も最良の状態になっています。 つまり、埋入後初期の段階で最もしっかりしているのが、手術したその日なのです。 骨は生きています。常に吸収と添加をくり返しています。埋入したインプラントの表面に接触している骨は徐々に吸収され、最もインプラント安定度が下がる(つまりインプラントがゆるんでくる)時期が約3週目から4週目くらいになります。 つまり、この期間に微少動揺を50〜150ミクロンの範囲にとどめておくことが、治療を成功に導く基準値であると言われています。 したがって、手術後の仮歯の期間は、先に述べたように、硬い食べ物は避けるべきです。 また、歯ぎしり、くいしばりのある患者さんは、充分な注意が必要です。
しかし顎の状態が不十分てあっても、インプラント治療が不可能というわけではありません。 顎の骨の足りない部分に、患者さん自身の骨を若干移植するなどの方法で骨を補充し、そのうえで同じようにインプラント治療を行うことができるからです。これが「骨造成術」という手術です。 移植する骨は、次の図のようにいろいろな場所から採取されます。骨移植ではなく、人工的な素材を使うこともあります。 骨移植手術は少量の簡単なものから、大量の大がかりなものまで、いろいろあります。しかし、静脈内鎮静法と局所麻酔の併用により、歯科医院で行える範囲のものです(もちろん行える医院は限られていますが)。移植した骨がしっかりと固定される期間が必要ですから、治療の完了までは、通常のインプラント治療よりも長くなります。 インターネットのインプラント相談でよく見かけるのが、歯槽骨造成手術のために入院して腸骨移植や脛骨(足の骨)からの骨移植を勧められたというものです。そこまでしてインプラントをした方が良いのか、患者さんとしては大変悩んでおられるようです。 全身の骨を発生学的に見ると、顎の骨は膜性骨と言い、腸骨および脛骨は軟骨性骨です。 顎の骨に腸骨や脛骨を移植した場合、発生学的に違う骨を移植することになります。 術後の吸収量を比較すると腸骨は顎の骨より3〜4倍の吸収(骨の萎縮が元の移植骨量の30〜50%少なくなる)を生じます。 顎の骨に骨を移植する場合は、顎の骨、または顔面骨から骨を採取した方が、術後の移植骨の吸収量も少ないし、骨密度も高いため、より良いのです。さらに入院の必要もなく、1ヶ月もの間松葉杖ということもありません。 骨造成手術には、以下のような種類があります。 1、自分の骨を移植する骨造成(サイナスリフトなど) 2、GBR(骨再生誘導法) 3、スプリットクレスト 4、下歯槽神経移動術 5、歯槽骨延長術
歯科治療では、歯の機能を回復することと同時に、見た目を美しく維持するという、いわゆる「審美的な目的」も重要視されます。患者さんの顎骨の状態から、通常のインプラント治療が可能であると判断された場合でも、顎骨が痩せているために仕上がりの見た目には不満が残るということもよくあります。 たとえば上顎の前歯の1本をインプラントにする場合、抜けた部分の歯肉や歯槽骨も失われていることが多く、そのまま治療すると歯茎のラインの仕上がりが不自然になります。インプラントにした部分だけ歯茎が短く、歯だけが長く伸びたようになってしまうのです。笑顔のときに歯茎が見える患者さんでは、気にされることもあります。 最近は、このような審美的な問題を解消するために骨造成術が行われることも多くなってきました。